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 すばる望遠鏡のテクノロジー 2018年4月22日登録
 ● はじめに

 天文ファンの1人としてすばる望遠鏡について調べてゆくうちに、その技術面でのユニークさと天文分野における成果に驚かされました。従来、ハッブル宇宙望遠鏡がこの分野をリードして来ましたが、最近ではすばる宇宙望遠鏡はハッブルを凌駕する性能を獲得、赫々たる業績を上げるようになってきました。

 全般的に、日本の天文界は少ない予算で工夫を重ねながら、一例ですが、下図の補償光学のような世界的にユニークな成果で世界をリードしていることを同じ日本人として本当に誇らしく思いました。天文ファンでは良く知られていると思いますが、普通の多くの日本人にも知ってほしいという思いでこのページを作成した次第です。

 「ハッブル宇宙望遠鏡は、15年の歳月と120億ドル(9600億円)という費用をかけた、世界一高価な望遠鏡です。一方、すばる望遠鏡は「いろいろ込みで500億円ほど(ACTIVE GALACTIC サイト」と、比較的安くなっています。

 従来無理と言われてきた口径8.2mという大口径反射鏡を厚さ20cmという薄さで軽量化、鏡の向きによって自重で変形し焦点がズレるという問題点を、ダイナミックに鏡に力を加えることで補正するというアイデアなど、すばる望遠鏡には多くの独創的なテクノロジーが盛り込まれています。

 一方、「すばるの予算は2018年度は大幅に減額され厳しい状況」(すばる小委員会報告)とのことです。「国力衰退」が叫ばれる中、我々の誇りを失ってはなりません。効果的な支援が必要かと思います。
 ここでは、すばる望遠鏡の以下のような技術面に焦点を当ててみました。


   
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   すばる望遠鏡の補償光学技術   (クリック➡拡大)

 
補償光学の効果 (左:補償あり)
 
すばる望遠鏡の補償光学用レーザー光線 
すばる望遠鏡の視力を10倍にする補償光学

 空気のゆらぎ(シーイング)を軽減するために、敢えて4,,200mというマウナケア山頂に建造されたすばる望遠鏡は、地上の空気の約60%と薄いのですが、空気のゆらぎの影響を避けることができません。最も重要な性能である解像度は反射鏡の口径に依存します。当初は、宇宙に浮かぶ口径2.4m のハッブル望遠鏡が、口径8.2mのすばる望遠鏡より解像度の点で勝っていたのですが、すばるが開発した補償光学のおかげで、最近、ハッブル宇宙望遠鏡を凌駕し、解像度の点でも世界一になったそうです。
 
 上の写真(左)を見て下さい。いずれの写真も、オリオン大星雲にある4つの明るい星 (トラペジウム)を撮影したものです。 右の明るい画像は、1999 年、すばるのファーストライト(稼働開始時の最初の観測画像)で撮影されました。補償光学で補正されたものと同じトラペジウム画像と細かく対照させて見ると、補償光学による解像度の改善効果が手にとるように分かります。当初の補償光学は、36枚の「可変形状鏡」という制御素子でスタートし、現在は188素子まで拡張されています。上記の写真は188素子によるものです。

 補償光学は、当初、近傍に、一等星程度の明るい恒星がなくては補正できなかったのですが、最近は大気圏の中間層である「ナトリウム層(Wikipedia)」に向けてレーザービームを発射し、人工の一等星を作り出すことによってご補修光学を実現するという驚くべきテクノロジーが導入されています(上の右側写真参照)。

 このレーザーは、ナトリウムD2 線 (波長 589nm) と同じ周波数の高出力レーザーを照射し、高度 90km のナトリウム層のナトリウム原子を共振させて人工的にガイド用の星をつくってしまいます。素晴らしいアイデアですね。なお、補正は1ミリ秒(1秒間に1,000回)毎に実行されています。

 世界的にみて最近計画されている地上の宇宙光学望遠鏡では例外なく、この補償光学系が採用されています。天文学会では特許みたいな制度とは縁がないようです。新規のテクノロジーは公開が原則みたいです。関係者が必死の努力を傾注してく開発したすばる望遠鏡のこの技術ですが何か悔しい気がします。メーカー側は商売ですから特許を申請しているとは思いますが、他国はちゃんと特許料を払っているのかな?

   ● すばるHSCハイパーシュプリームカム 目次へ

 すばる望遠鏡搭載の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(HSC) は、従来とは全く異なる機能と目的を持った天体望遠鏡で、最高の解像度で広大な天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラです。主に全宇宙のダークマターの3次元分布を観測する目的を持っています。

 カメラ部は焦点面に116個のCCD素子を配置しており、計8億7000万画素を持つまさに巨大なデジタルカメラです。このCCD素子は国立天文台と浜松ホトニクス株式会社で新規に共同開発したもので、幅広い波長域にわたり非常に高い感度を有することが特徴です。

 
すばるハイパーシュプリームカムのCCD素子(イメージ素子)  (クリック➡拡大)

 すばる望遠鏡には、主鏡の上約16メートルの位置に、主焦点と呼ばれる焦点があります。主焦点は広い天域(視野)を一度に撮影できるという特徴があり、口径8-10メートル級の望遠鏡ではすばる望遠鏡だけが主焦点で観測できます。1999年のすばる望遠鏡のファーストライト以降、ここに主焦点カメラ Suprime-Cam が設置され、視野の隅々までシャープな天体画像が得られています。大口径・広視野・高解像度の特性を合わせ持つ望遠鏡はすばる望遠鏡の他になく、最遠方銀河の発見や銀河形成史の探求など、Suprime-Cam を使って数多くの研究がなされてきました。

 これまでの天体望遠鏡は、ひたすら大口径化・高倍率化を追求してきました。この傾向は現在でも続いています。例えば 口径30mの超大型望遠鏡「TMT」プロジェクがそうです。

 一方、解像度を維持しながら広い画角の映像を撮影する領域が新規開拓されました。すばるハイパーシュプリームカム(HSC)は、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラとなっています。高さが3メートル、重さが3トンもの巨大な観測装置です。
 
 すばるHSCは2002年より技術的な検討が始まり、長期にわたる開発期間を経て、2012年7月までに主要な部分の組み上げが完了、8月16日から17日にかけて望遠鏡への搭載作業が行われました。科学観測では、すばる望遠鏡のシャープな星像と HSC の広視野を活かし、重力レンズ効果を用いたダークマター分布の直接探査などの観測が進められました。


 
ダークマター地図 (クリック➡拡大)

 2018年3月、国立天文台、東京大学などの研究チームは、すばるHSC を用いた大規模探査観測データから、重力レンズ効果の解析に基づく史上最高の広さと解像度を持つダークマターの上の「地図」を作成しました。この「地図」からダークマターの塊の数を調べたところ、最も単純な加速膨張宇宙モデルでは説明できない可能性があることがわかりました。加速膨張宇宙の謎を解き明かす上で新たな知見をもたらす成果です。この大規模な探査観測は、2019年の末まで続く予定です。

 すばるHSCの詳細については弊サイト「すばるハイパーシュプリームカム」をご覧ください。
 
 ● その他のすばる望遠鏡の独創的テクノロジー目次へ

 本稿は主に「すばるを支える最新技術」サイトから引用させて頂きました。

 世界最高精度の口径 8.2 メートル反射鏡

 望遠鏡が光を集める能力は主鏡の面積に比例します。すばるの口径 8.2 メートルの主鏡は7年の歳月と細心の注意をかけて製作された世界で一番大きく、滑らかな一枚鏡です。主鏡のガラス材が製作されたのはニューヨーク州、研磨されたのはペンシルベニア州のコーニング社、望遠鏡を設置する場所はハワイ州のマウナケア山頂です。運送には細心の注意が必要で、常に水平を保ちショックのない専用の搬送車を開発しました(日本通運)。

 主鏡を支える能動光学

 口径8メートル級の一枚鏡を用いた反射望遠鏡を作るためには、能動光学と呼ばれる技術が必要となります。重さを最小限にするため、すばるの鏡の厚さは 20 センチメートルしかありませんが、これだと傾けた際に歪んでしまい、形を保持できません。そのため、261 本のアクチュエーターと呼ばれる制御装置で主鏡を支え、望遠鏡がどの方向を向いても、常に鏡を理想的な形に保ちます。すばるの能動光学の特徴は、アクチュエーターの多さと、補正精度向上のために主鏡の裏に穴を掘ってアクチュエーターをはめ込む作業をとったことにあります。主鏡の薄さを逆用しているわけです。

 ハイテク技術を駆使した望遠鏡駆動制御

 すばるは、世界の口径8メートル級望遠鏡の中では唯一、主焦点に装置を取り付けることのできる望遠鏡です。これを支える 500 トン余りの頑丈な構造は、摩擦を最小限に抑えるために油パッドの上に浮かべられており、最新のリニアモーターを取り入れた駆動システムで動きます。これにより、0.1 秒角の天体追尾精度が実現されました。

 空気の揺らぎを抑える円筒型ドーム

 水流実験 (下の写真) などで最良のドームの形を追求した結果、すばるには円筒型のドームを採用することにしました。風通しの良いこのドームは、外部の乱流を含んだ空気を持ち込まずに、内部の熱を効果的に排出することができます。

 観測能率を向上させる観測装置自動交換システム

 観測装置の交換は注意を必要とする作業で、マウナケアのような高山では特に困難です。すばるでは素早く、安全、正確に観測装置を交換するために、自動交換装置を多く取り入れています。

 最高性能を維持する日常のメンテナンス

 鏡面の性能を維持するために、ドライアイスによる清浄は2週間おきに、アルミニウムの再蒸着 (コーティング) は2~3年おきに行われます。

  (以上)